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個性を自立力にするために興味を広げるべし

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体罰の被害および目撃とPTSDとの関連、長期的な影響について

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▼要約

家庭や学校、スポーツの練習中における体罰が原因の、事件や事故について報道されることがある。しかし現状では、体罰が人に及ぼす精神疾患のリスクや自殺念慮、攻撃性や暴力的な行動の増加、長期的な人格形成に与える影響について科学的根拠に基づいた議論がなされていない。そこで本論では、体罰の被害及び目撃が人に与える影響についての論文のレビューを行う。

体罰は、心的外傷体験になる場合があり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症させることがある。PTSDの症状には入眠困難や中途覚醒、苛立つことや怒りの爆発、集中の困難さ、過覚醒、強い驚愕反応、の5種類がある。

心的外傷体験となり得る体験は暴力の被害だけでなく、暴力で脅されること、暴力を目撃することがある。心的外傷体験は人格形成に対して悪影響を与え、抑うつ、自殺念慮、酒や薬物の乱用、攻撃性の増加、妻や子どもへの暴力の危険性を増加させる。

今後検討すべきこととして、①体罰を受けたことがある当事者のPTSD症状に関する調査、②体罰が与える悪影響についての啓発、③体罰や言葉による過度の批判を用いずに行われる指導方法の確立と普及、がある。

 

 

▼心的外傷体験と心的外傷後ストレス障害(PTSD)

強い恐怖や苦痛を伴う体験のことを心的外傷体験といい、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こす場合がある。

PTSDを引き起こす恐れがあることが明らかになっている体験は、

⑴性的暴行、

⑵身体的暴行(武器で脅されることを含む)、

⑶養育者からの虐待(顔や尻に平手打ちをされる、突き飛ばされる、クローゼットに閉じ込められる、固い地面に投げつけられる、殴る蹴るの暴行を受ける、首を絞められる、火をつけられる、鋭いもので切られる、武器で脅される)、

⑷コミュニティ内での暴力の目撃(目撃している出来事は、銃や刃物による暴行、性的暴行、窃盗、武器で脅される、殴る蹴る)、

⑸家庭内暴力の目撃(目撃している出来事は、突き飛ばす、殴る蹴る、クビを絞める、物で叩く、武器で脅す)、

⑹その他の心的外傷体験(自動車などの事故、火事、自然災害、犬に噛まれる)、

の6カテゴリーである(Cisler et al., 2011)。

 

▼暴力の目撃、暴力による脅しが原因のPTSD

ここで注目する必要があるのは、PTSDを引き起こす恐れがあるのは暴行の直接被害だけでなく、脅される体験や目撃する体験が含まれていることである。このように直接的な被害を受けないものの暴力の現場を目撃し、結果として強い精神的なショックを受けることを共犠牲(covictimization)という(Warner & Weist, 1999)。従って、体罰に関連する心理的ケアを行う際には、体罰の直接の被害者だけでなく、体罰を目撃している周囲の子どもの心理状態について把握し、必要に応じたケアを行う必要があると言える。

 

▼PTSDの症状

DSM-VI-TRによるとPTSDに特徴的な覚醒に関する症状には、入眠困難や中途覚醒、苛立つことや怒りの爆発、集中の困難さ、過覚醒、強い驚愕反応、の5種類がある。Foa et al.(1997)が作成した外傷後ストレス診断尺度においては具体的な症状が示されている。例として、心的外傷体験が勝手に頭に浮かんでしまい動揺する、心的外傷体験に関する悪夢を見る、心的外傷体験を再び体験しているような感覚に襲われる、心的外傷体験について思い出すと恐怖/怒り/悲しみ/罪悪感のような強い感情を感じる、心的外傷体験を思い出すと汗が噴き出したり動悸がする、心的外傷体験を思い出すような活動や場所を避けようとする、もともとあったはずの興味関心が失われる、寝付けなかったり眠っている途中で目が覚めたりする、集中力が失われる、自分の安全を気にする、ささいなことに驚いて怯える、がリストアップされている。

 

▼PTSDの人口

PTSDの人口に関する調査にはアメリカで行われたものがあり、対象者(n=34,653)のうち、4.83%が調査時点までにPTSDの症状を経験したことがあり、1.59%が調査時点までにPTSDとアルコール依存症の両方を経験したことがあるという結果となった(Blanco et al., 2013)。なお、日本ではPTSDの人口に関する調査は行われていない。

 

▼自殺、抑うつ、妻や子どもへの暴力のリスクの増加

Turner & Muller(2004)は成人の抑うつ症状と、過去に受けた体罰、虐待、体罰の最中の怒り、その他のしつけ(子どもが間違ったことをしたときに穏やかに注意する、ものを取り上げる、外出を禁止する、怒鳴る)の体験の因果関係の分析を行った。その結果、体罰及び体罰の最中の親の怒りが、子どもの抑うつ症状と因果関係があることが明らかとなっている。

Straus & Kantor(1994)は、十代のときに家庭内で体罰を受ける頻度が多かった対象者は、自殺念慮、酒の乱用、成人後に自分の子どもに対する虐待、成人後に自分の妻に対する暴力が増加することを明らかにしている。このことから、体罰の被害者は新たな加害者となっていく可能性が高いと言える。

心的外傷体験と精神症状の関連についての調査は複数行われている。Singer et al.(1995)は思春期の子ども(n=3735, 14〜19才が対象)の心的外傷体験と、抑うつ、怒り、不安、解離、心的外傷後ストレス、心的外傷体験と、全体的な心的外傷後に現れる症状との関連について調査した。その結果、これらすべての症状に因果関係があることが明らかになった。

Turner & Muller(2004)は対象者(n=649, 18〜29才が対象)が13歳の時点での親からの体罰の経験とPTSDの関連について調査した。その結果、13歳時点での体罰の経験と成長した後での抑うつ状態とに因果関係があることが明らかになった。また、体罰が行われる際に親が表出する怒りの程度が、対象者の抑うつ症状を予測させる要因であることが明らかになっている。

Kilpatrick & Williams (1997)は、対象者(n=58, 6〜12才が対象)の家庭内暴力を目撃した経験が、PTSDの症状と関連していることを明らかにしている。

 

 

▼酒や薬物の乱用のリスクの増加

アメリカで行われたPTSDとアルコール依存症の罹患率に関する調査(n= 34,653、 18歳以上が対象)では、PTSDのみが4.83%、アルコール依存症が13.66%、PTSDとアルコール依存症の併存が1.59%ということが明らかになっている。また、PTSDとアルコール依存症の併存のある対象者において高い割合を占めるのが、子ども時代の辛い体験、精神疾患やパーソナリティ障害の発症、自殺未遂の経験であった(Blanco et al., 2013)。

アメリカにおいて酒や薬物の乱用の危険因子について調べた研究(n=4,023、12〜17才が対象) では、身体的暴力、性的虐待、暴力の目撃の体験及び、酒や薬物の乱用を行う家族を持つ子どもにおいて、酒や薬物の乱用を行うリスクが高いことが明らかになっている。また、PTSDの症状のある子どもにおいては更に、マリファナなどの薬物を用いる危険性が高い(Kilpatrick et al., 2000)。

Cisler et al., (2011)は12〜17才の子ども(n=2,399)を対象賭した調査では、PTSDの症状がある対象者の飲酒する頻度と量が増加することが明らかになった。また、PTSDの症状がない対象者であっても心的外傷体験があることによって、飲酒する頻度と量が増加することが明らかになっている。

アルコール依存症の症状には、飲酒に対する欲求が脅迫的に生じること、そのため飲酒量のコントロールをすることが困難となること、過度の飲酒による健康被害(肝障害、がん、精神障害)がある。またアルコール依存症によって影響を受けるのは患者個人だけでなく、暴力事件、自動車の運転ミス、離婚、育児放棄などがあり、患者の周囲の人々に対しても大きな影響を及ぼす(WHO, 2001)。

 

▼心的外傷体験と人格形成

うつ病やパーソナリティ障害の治療に用いられることがあるスキーマ療法の理論によると、人格形成に関わる重要な要素は3種類あり、そのうちの一つとして心的外傷体験がある (ヤングら, 2008)。年齢が幼いほど、心的外傷体験から受ける心理的な影響は大きく、その後の人格形成に対して与える悪影響も大きい(ヤングら, 2008)。また、心的外傷体験が攻撃性を増加させる場合があることが明らかになっている(Song, 1998)。

PTSDの状態にあるときは、特定の種類の思考が生じることが知られており、そのような思考を調べる目的で質問紙が開発されている(Foa et al., 1999)。この質問紙によって測られるのは、自己に関する否定的な認知(例:自分には、正しい行動ができるとは思えない。)、世界に対する否定的な認知(例:他人というものは、信用できない。)、自責の念(例:あの出来事が起きたのは、自分の振る舞い方が原因であった。)の3カテゴリーである。

 これらのことから、教育現場やスポーツの練習中における体罰は、結果として子どもの健全な育成という本来の目的を大きく阻害する恐れがある。また、体罰だけでなく言葉による過度の批判が、健全な人格形成を疎外すること及び将来のうつ病のリスクを高めることについても明らかになっている(ヤングら, 2008: Halvorsen et al, 2010)。

  

▼まとめと今後の課題

体罰は、体罰の被害者だけでなく目撃した当事者にとって心的外傷体験となる恐れがある。学校やスポーツの練習中においては、体罰を目撃している子どもが多いことが予測され、心的外傷体験に曝されるリスクは更に高まる。心的外傷体験は、PTSDを発症させる危険性があるだけでなく、人格形成に悪影響を与え、将来におけるうつ病や自殺のリスクを高める危険性がある。心的外傷体験によって攻撃性が増加した場合、自分の妻や子どもに対する虐待を行うようになる可能性がある。また、アルコール依存や薬物依存の危険性を高める。

今後の課題として、①体罰を受けたことがある当事者のPTSD症状に関する調査、②体罰が与える悪影響についての啓発、③体罰や言葉による過度の批判を用いずに行われる指導方法の確立と普及、が考えられる。②に対しては本論が利用できる。また、③に対してはウィッタム(2002)によるADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもに対するペアレントトレーニングの手法が参考になる。

また、心的外傷体験と区別すべき問題もある。例えば、格闘技の試合を観ることは心的外傷体験となり得るのだろうか?また、暴力シーンのある映画やゲームをすることが心的外傷体験となり得るのだろうか?なり得るとすれば、それはどのような条件においてであろうか?このような判別を要することについて、今後、明らかにしていくことが必要である。

 

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