
いじめは心的外傷体験になることが分かっています。心的外傷体験とは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病を引き起こす原因となる体験を言います。
▼PTSDの原因と症状
PTSDは、自分が身体的/心理的にひどい状況にさらされることによって起こります。自衛官や兵士がPTSDを起こす原因となるのは、戦場での悲惨な状況を目の当たりにする体験、実際にひどい負傷や恐怖を受ける体験、などです。
PTSDの症状は、日常生活の中で悲惨な体験がありありと再現される、眠れなくなる、感情がコントロールできなくなる、というものがあります。
いじめによって自殺するということは、PTSDやひどい抑うつの症状があったことが推察されます。「いじめ」というとどこでも起こるありふれたもののように感じるかもしれません。ですがいじめの実態は生涯にわたって悪影響を残す深刻な行為です(参考:「自分は愛されない人間だ」:いじめられた人が一生持つかもしれない考え)。
いじめを自衛官に身近な例になぞらえるならば、敵国の捕虜になって拷問を受けていることに相当するような深刻な状況だと言えるでしょう。
元ニュース:賠償7300万円に増額=資料隠しの違法性も認定―海自いじめ自殺訴訟・東京高裁
▼いじめや暴力は自衛官のパフォーマンスを下げる
「ストレスには日頃から慣れておくことが大切だ」という考え方があります。この考え方は一面の真実でもあります。ですが自衛官に対して「ストレスに慣れろ」と考えた場合、日常的に暴行することが正しいことだという結論になってしまう恐れもあります。
アメリカ兵のPTSDの症状と過去の虐待を受けた体験の関連について調べた研究では次のことが分かっています(参考:日頃から暴力を受けていた方が耐性がつくというのは本当か?)。
- 過去に虐待や暴行を受けたことがある兵士は、その体験の時点でPTSDを起こしていることがある
- PTSDを起こしたことがある兵士は、再びPTSDを起こすリスクが高い。つまり戦場でPTSDを起こす危険性が高い。
自衛官同士でのいじめや暴行はいじめを受けている本人にとってむごいことです。また、いじめを目撃している周囲の人にもPTSDの症状を起こす危険性があります(参考:体罰の被害および目撃とPTSDとの関連、長期的な影響について)。
このことから、自衛官のいじめは結果的に国家の防衛力を引き下げる方向に働いてしまう恐れがある、非常に危険な行為だと言えるでしょう。いじめの防止や早期発見、被害者のフォローをするための仕組みが必要です。
photo credit: Don McCullough via photopin cc