
オキシトシンは人間の体内で作られているホルモンです。2匹のマウスにこのホルモンを注射すると、注射後では2匹のマウスが仲良く寄り添って活動するようになります。このことから、オキシトシンが対人関係に関与するホルモンなのではないかと考えられています。自閉症の人もオキシトシンの実験に参加しています。
▼どんなときに体内でオキシトシンが増えるのか
人間では出産後にオキシトシンが急激に増加することが知られています。出産後の女性が赤ちゃんに対して強い愛着が生まれるのにも関係しているようです。このことからオキシトシンは愛のホルモンと呼ばれることもあります。自閉症スペクトラム障害が男性に多く、女性に少ないことの理由はオキシトシンの影響があるのかもしれません。
▼ オキシトシンを自閉症の人に使うとどうなるのか
自閉症スペクトラム障害の人の鼻の中にオキシトシンをスプレーするとどのような変化が現れるのかについての実験が行われています。効果が現れることがわかっているのは相手の表情の読み取り、他者とのやりとりがうまくいっている感覚、の2つです。
▼相手の表情の読み取り
人間は、相手の表情から相手の感情を読み取りながらコミュニケーションをしています。何かを自分が言ったときの相手の表情の変化から、後に続ける話をどうするか自然に考えています。
ですが、自閉症スペクトラム障害の人は相手の表情を読み取ることに困難を抱えています。また、表情よりさらに複雑な「空気を読む」ことが難しいと感じています。
表情を読み取れないことによって、結果的に相手とのやり取りがうまくいかない経験を重ねることになってしまいます。そしてコミュニケーションをとること自体が嫌なものになっていってしまいます。逆に、インターネット上でのやり取りの方が得意だという人が多いことの背景には、表情を読み取る必要がないからだという言い方ができるでしょう。
このような困難のある自閉症スペクトラム障害の人にオキシトシンのスプレーをすると、表情の読み取りがやりやすくなるというのが、多くの実験から分かってきていることです。
▼他者とのやりとりがうまくいっている感覚=自信
オキシトシンのスプレーをすると表情が読み取れるようになります。そして結果的に、他者とのやりとりがうまくいっているという感覚を持ちやすくなるようです。
表情が読み取れている感覚が得られることによって、コミュニケーションに対する苦手意識が減少するという好循環が生まれているようです。
▼オキシトシンも万能薬ではない
オキシトシンは自閉症スペクトラム障害の人にとって一定の効果があるようです。ですが万能薬ではないことも指摘されています。
例えば、ずっとコミュニケーションをとることができなかった人であれば、どうしても人と関わる経験が不足しがちになってしまいます。不足した経験を補うためには、人とやりとりをする場数を踏んだり、カウンセリングを受けることが必要になってきます。つまりオキシトシンは相手の表情を読み取る点においてのみ、手助けをしてくれるのです。
このように期待の大きいオキシトシンですが、まだ販売される段階にはないようです。今後、副作用や耐性の問題についても調べていく必要があります。
※オキシトシンは2014年4月5日に放送されたNHKスペシャル「人体ミクロの大冒険」でも取り上げられました。iPS細胞で知られる山中伸弥教授も出演していた番組です。
※自閉症スペクトラム障害(ASD)には似ている表現が多数あります。自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などがあります。
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