
いじめという問題に対する生徒の関わり方は3種類に大別できます。
1.いじめられる
2.いじめる
3.周囲で見ている
それぞれの生徒の特徴を捉えることで、いじめの防止や早期発見の対策に活用することができます。以下で役割ごとの生徒の特徴をリストアップします。
第1回 発達障害といじめ①:いじめの定義といじめの7種類を知りましょう
本記事の元になっている本
目次
1: いじめられる生徒の特徴
1-1: 自閉症スペクトラムの生徒が被害妄想的になっていくプロセス
1-2: 自閉症の障害特性といじめ被害との関連
2: いじめを行う生徒の特徴
3: 周囲で見ている生徒の特徴
4: まとめ
1: いじめられる生徒の特徴
いじめられる生徒は基本的に、周囲の子ども集団とのつながりを欠いていることが多いようです。
いじめられる生徒はさらに、受け身ターゲット、誘発ターゲットの2種類に分けることができます。発達障害の有無にかかわらず以下のような特徴があることによっていじめのターゲットになる可能性があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
受け身ターゲット
- 内気でもの静か
- 不安
- 自信がない
- 自己評価が低い
- 一人だけで人との関わりの少ない興味関心のあることをしている時間が長い
- まじめ、想像力豊か、才能豊か
- スポーツに参加することが少なく、体が小さく不器用
- 教室の中での存在感がない友人が限られている、または対人関係における連携が少ない
- 人との関わりを自ら進んで開始することが少ない
- いじめる子どもをひきつけたり挑発することは何もしない
- お金、食べ物、持ち物を相手に差し出すことで,いじめ行為に「報酬」を与える可能性が高い
- いじめを受けると外に向けて抑うつ感上を示す可能性が高い
- 対人関係に自信がなかったりソーシャルスキルが欠けていることが多い
- いじめる子どもから当惑させられたり気おされたりする
上記14の特徴は、自閉症スペクトラムの3タイプと見比べてみると、孤立型、受動型の特徴と重なるものが多いことがわかります。ですが実際には、発達障害の有無に関係なくある特徴です。
いじめ被害を深刻化させてしまう生徒の特徴には、いじめっ子から何かをされても反応を示さないというものがあります。この特徴も自閉症スペクトラムに見られるものです。
このことからも発達障害のある生徒がいじめを受けるリスクが高いことが改めて確認できます。
自閉症スペクトラムの3タイプに関しては「自閉症スペクトラム障害は3タイプに分けて理解すると支援しやすい」をご覧ください。
誘発ターゲット
- 他の子どもとの関わり方に困難さがある
- 友達が欲しいので他の子どもに接近するが、接近の仕方が不器用で相手を押したり蹴ったりしてしまう。その結果、相手の子どもからやり返されて本人は驚いたり悩んだりする。
- からかわれることにきわめて敏感で自分だけがいじめの被害者だと決めつけている
上記の1〜2は自閉症スペクトラムの3タイプのうちの積極奇異型に該当する特徴を示しています。人と関わる時の適切なやり方を学ぶことによって、徐々にこの問題には対処することができるようになっていくでしょう。
3に見られる被害的な意識は「相手の意図を読み取る」ことが難しい自閉症スペクトラムの特性によって引き起こされます。以下で詳しく説明します。
1-1: 自閉症スペクトラムの生徒が被害妄想的になっていくプロセス
相手の意図を善意だと読み間違える
「屈折したいじめ」は自閉症スペクトラムの生徒の障害特性につけ込んだ深刻ないじめです。屈折したいじめとは、表面的な態度と心の中にある考えや感情に著しいギャップのある行為です。
自閉症スペクトラムの生徒は「他者の意図を読み取る」ことに障害がありますから、この種のいじめを回避することができません。このようないじめを頻繁に受けることによって人間不信の状態におちいってしまいます。なお、いじめの種類については「いじめの定義といじめの7種類を知りましょう」をご覧ください。
相手の意図を悪意だと読み間違える
悪意がない相手に、悪意があると勘違いすることがあります。これが起こるのは次のようなケースです。
例えば、他の生徒と廊下ですれ違いざまにぶつかった際に、感覚に過敏があるせいで強い不快な反応が生じてしまうことがあります。この場合、ぶつかった相手には悪意はありませんが、自閉症スペクトラムの生徒は「相手に悪意がある」と解釈してしまうことが起こります。
また、会話をしている際の親しみを込めて軽く叩くような行為を悪意と読み間違えることも起こります。
このように相手の意図を読み取ることの障害によって、人との関わりに神経質な面が出てきてしまうことがあります。このような善意の読み間違いを予防するために、本書では「コミック会話」を利用して、コミュニケーションについての学習を行うと効果的であると述べられています。コミック会話は通常のSSTよりも、紙に絵と文字で状況を書き込んでいくやり方であるため、視覚的な理解力の高い自閉症スペクトラムの特性にマッチするそうです。
統合失調症や妄想型パーソナリティ障害のリスク
自閉症スペクトラムのある人には妄想の症状があらわれる統合失調症や、妄想型パーソナリティ障害の人が多いことがわかっています。このような障害のリスクを高めないためにもいじめ予防を行い、心的外傷体験のない学校生活が送れるようにする必要があります。
1-2: 自閉症の障害特性といじめ被害との関連
いじめも自閉症もパターンを好むという性質があります。ここでは自閉症スペクトラムの障害特性と、いじめ被害との関連について整理します。
①自閉症もいじめっ子もパターンを好む
いじめは特定の時間に、特定の場所で、決まったテーマで繰り返されることが多いです。例えば、いじめる子は休み時間にいつも決まった場所でたむろしているようなことがあるでしょう。
一方、自閉症スペクトラムは障害特性として一定のパターンのあるできごとを好む傾向があります。ですから、いつも決まったパターンで「実験的いじめ」「屈折したいじめ」「理不尽な情報と理不尽な要求」のような行為が行われると、自閉症の生徒は疑うことなく、いじめようとしている生徒に近づいたり従ってしまうことが起きやすいのです。
②いじめっ子の誇張したしゃべり方は自閉症に分かりやすい
いじめっ子の言動の特徴として、いつも決まったパターンで強調された発言をします。いじめっ子としては自分を大きく見せたり悪意を隠すという目的で大げさなイントネーションやジェスチャー、表情を用います。いじめっ子のこのようなコミュニケーションのやり方は、自閉症の生徒にとっては比較的分かりやすいものです。
自閉症の生徒が相手の悪意に気がついていない場合、相手のコミュニケーションの分かりやすさから、自らいじめっ子に近づいていってしまう結果になってしまうことがあります。
③顔を覚えられない自閉症の生徒はいじめっ子を警戒できない
自閉症スペクトラムの人は、他人の顔を識別する力が弱いことがあります。この特性は、自分をいじめる相手を見分けて被害を回避することを妨げることになります。
ある自閉症の人は過去を振り返って「なぜいつも会ったことのない人が、自分のカバンを奪い去っていくのか不思議だった」と述べています。
2: いじめを行う生徒の特徴
- 自分が支配したり主導権を握る立場に立つことを欲している
- 学級内で言語スキルが高い。必ずしも学業成績は高いこともそれほどでもないこともある
- 他者に対する共感に欠けている
- 継続的に1人あるいは複数の子どもをいじめている
- 自分の行動をうまく大人に隠している
- 規則に従わず、反抗的で素直ではないことが多い
- 罪の意識に欠ける傾向があり、自分がいじめの標的にした子どもの方が、先に口撃や挑発をしたと思い込んでいる場合がある。
- 常に勝利を収めたいと言う心理的欲求があり、自分の欲しいものを手に入れることを中心に考えている
- 知的到達度は平均または平均を下回ることがある
- いじめっ子に力を貸したり関係を持っていることで力を得る仲間、支援者、友人が数人いる
- 一貫して誤った思考を示す。例は以下のものです。
・自分の方がうえだと信じている
・「誰もが自分に反対している」と確信している
・攻撃の標的にした相手が自分を「からかった」と信じている
・相手が恐怖することによって、自分は尊敬されていると感じる - 子育てが一貫していない不安定な家族の中で育っている傾向がある。不安定な家庭の例は以下のものです。
・両親がいつも言い争いをしている
・親の気分によって子どもへの接し方に一貫性がない
・親が家庭内での問題の解決スキルに乏しい
このように特徴を挙げていくと、いじめを行う生徒も問題を抱えていることが分かります。いじめを行う生徒は基本的に、親との関係に何らかの問題を抱えています。親が子どもに対して共感に欠ける接し方をしている場合、子どもは他者への共感をできるようになれません。いじめをする子どもに共感性が欠けることの要因にはこのような事情がある可能性があります。
また、親から共感的に接してもらえないことによって自尊心を育てることができません。人間は自尊心が低い場合、他者をおとしめて自分の価値を高めようとすることがあります。つまり親に理解されないという不幸な状況の中で、子どもなりに自分の価値を確認するために、いじめっ子はいじめを行っていると考えることができるのです。
このことからいじめを行っている子に対して、いじめを行うことが間違ったことだと教える一方で、必要な支援を行っていくことが必要であると言えます。
3: 周囲で見ている生徒の特徴
いじめの被害や加害に関与しない周囲の生徒は約84%いると言われています。この生徒たちは、いじめを行う生徒との関係を次のようなやり方で切り抜けているようです。
- あえて自分のやり方を主張することをしない。同意できないときには理由を述べる。適切な謝り方ができる。
- 妥協し、協力的立場を示し、交換条件を出したり交渉したりする
- 別のことで分かち合ったりし、後で分かち合おうと申し出る
- 話題を変える
このグループの生徒がいじめに対して示す反応は生徒によって大きく異なります。生徒によってさまざまな種類の気持ちの反応が起こります。(気持ちの反応:いじめを面白がる、悲しんだり気遣う、 次は自分がいじめられる番だと感じて恐れている、 怒りを感じる、 自分が何もできないことに対して罪の意識を感じる、 自分には関係ないと感じる )
このグループの生徒には社会性の強さと、数の面での強さがあります。いじめ防止プログラムを学校で実行する際には、このグループの生徒が果たす役割は非常に大きくなります。いじめに関する教育やトレーニングを行うことによって、次のような特性を持つ生徒が増えることを期待することができるでしょう。
- 健全な自尊心
- 友情関係を確立し維持する能力
- 肯定的態度、楽観的思考、ユーモアのセンス
- 「正しいこと」の感覚と、頻繁にいじめを報告する正義感
4: まとめ
- いじめへの関わり方は、いじめを受ける、いじめる、周囲にいる、の3種類があります。
- いじめを行っている生徒も実は深刻な問題を抱えています。
- いじめ防止プログラムを適切に用いることによって、周囲で見ている生徒がいじめを予防するための重要な役割を果たすようになります。
第1回 発達障害といじめ①:いじめの定義といじめの7種類を知りましょう
第2回 いじめ予防のために3種類の生徒を理解しよう:発達障害といじめ②
第3回 いじめについての4つの間違った常識とは?:発達障害といじめ③
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