朝の子どもの起こし方:選択させる
朝、子どもを起こすのも一苦労です。特に、寒い季節になってくると大人でもフトンが恋しくなります。大人も子どももいい気分のままで、子どもをすんなり起こすのにはどうすればいいでしょうか?
▼ふつうの起こし方
たいていはこんな感じで声をかけるでしょう。
「朝だよ」
「幼稚園に行く時間になるよ」
「早く起きないとバスに間に合わなくなるよ」
ですが、子どもにとってはそんなことはどうでもいいことです。特に、うちの子どものように幼稚園に行ったら楽しく遊んでくるのに、行くまでの準備がとてつもなく面倒だという子どもにとっては何の効果もありません。もしかしたら「面倒だから幼稚園行かない」くらいの気分になっているかもしれません。
▼起こすときに選択させる
人間が行動したり何かを選択するときは、つねに損得勘定をしています。ですが、損得勘定をするための考える材料が少ない場合、間違った選択をしてしまうことが起こります。今回の例である「朝起きない」というのもここで言う所の「間違った選択」になります。間違った選択から正しい選択に向かわせるには、考えるための材料を提供する必要があります。そこで、このように言葉をかけます。
「寝てる時間が長くなると、遊ぶ時間がなくなるよ」
「すぐに起きたら、遊ぶ時間があるよ」
▼この言葉の意味は?
言葉の意味を説明します。その前に、うちの子どもの朝の支度を確認します。
①起きる
②朝ご飯を食べる
③遊ぶ
④着替える
⑤歯磨きをする
⑥遊ぶ
⑦出発する
「遊ぶ」が途中で入ってくるのですが、時間がない場合は遊ぶことができなくなります。彼にとっては遊ぶのはとても大切なことなので、「フトンでゴロゴロすること」と「遊ぶこと」を天秤にかけさせるのです。こうすることで、「長期的な利益のために、短期的な損を引き受ける」ことができるようになっていきます。ここでの長期的な利益は「遊ぶこと」、短期的な損は「フトンでゴロゴロできなくなる」です。
そして実は、「長期的な利益のために、短期的な損を引き受ける」という能力が「衝動性を自分でコントロールする」という能力で、誰にでも練習が必要なものです。そして、この能力が生まれつき弱いのがADHDと呼ばれる障害を持つ子どもです。うちの子どもも医者に見せればADHDと診断されることが確実な子どもですから、かなり強い衝動性を持っています。ですが、このようにして選択させることによって、衝動性のコントロールが少しずつできるようになっていきます。
▼子どもが言葉を理解できない時の対応
選択させるというやり方は思いのほか、子どもにとっては理解が難しいものでもあります。言葉だけでは、自分が何を言われているのか理解できないことも実際によく起こります。そのようなときには次のように絵に描いて説明すると良いでしょう。↓
説明の仕方:
①Aパターンの絵を見せながら「寝続けると、電車で遊ぶ時間がなくなるよ」と言う
②Bパターンの絵を見せながら「すぐに起きると、電車で遊ぶ時間があるよ」と言う
③「どっちにする?」と尋ねる
ほとんどの場合、ここまでやれば子どもは動き出します。これでもダメな場合は、また別の戦略が必要になります。
▼大切なポイント
大人が子どもに提示する選択肢を考えるときに注意することがあります。それは、子どもにとってうれしいことを選択肢に入れることです。この考えに従って、「フトンでゴロゴロ」に対して「遊ぶ」を選択肢として提示しました。
子どもがやっていることが「度が過ぎる行動」でなければ、嫌なことを選択肢にすることは避けた方が良いでしょう。ですから例えば、「起きるのと、怒られるの、どっちがいい?」という言い方は可能な限り避ける必要があります。小さい子どもを起こすためには有効かもしれませんが、このようなことが日常的に続くと10年後、20年後の子どもの人格形成に大きな影響を及ぼします。
そして実はここで大人が問われているのは、「子どもの20年後の人格形成のための面倒臭さ」と「今、子どもを叱って怖がらせて起こした方が楽」という長期的/短期的な損得勘定に対して、どのような選択をするかということでもあるのです。