「空気」を見えるようにするのがコミュ障のためのバリアフリー

アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障害)には「空気が読めない」という特性があると言われます。「空気が読めない」という表現を、もっと正確に表現すると「相手の感情や思考の状態を推測できない」と言えます。
では、そもそも人はどのようにして空気を読んでいるのでしょうか?(タイトルにあるコミュ障とは、コミュニケーション障害の略称としてネットで使われる言葉です)
▼そもそも空気を読むためのメカニズムとは?
できる人にとっては「空気を読む」というのは簡単なことのようです。できる人にとって非常に簡単な「空気を読む」は、以下のような無意識かつ複雑なプロセスによって行われています。
①:相手のサイン(表情、声の調子、ボディランゲージ)を見分ける
②:見分けたサインをきっかけに、直前に自分が相手に対してどんな言動をしているのかを振り返る(メタ認知)
③:振り返った自分の言動について、逆の立場ならどう感じるか推測する
④:推測にもとづいて、自分の次の言動を選択する
⑤:①〜④を会話の最中に同時に行い、軌道修正を繰り返す
この①〜⑤の機能は多くの人には「ある程度は」生まれつき備わっている機能です(経験の影響が大きいものもあります)。しかしこのプロセスの一つにでも問題が生じると、結果的に「空気が読めない」と呼ばれる状態になってしまいます。以下で、それぞれのプロセスについて説明していきます。
①:相手のサイン(表情、声の調子、ボディランゲージ)を見分ける
空気が読める人は他者とやりとりするときに、相手の表情や声の調子のわずかな変化を無意識に捉えています。相手の表情や声の調子に変化があったと感じると、空気が読める人は無意識に「自分の言動によって、相手の感情や思考に変化が生じた」と判断します。
他者の表情や声の調子の変化というのは非常に微妙な変化です。その変化を捉えることが元々上手な人は、相手の感情や思考の変化を感じとりやすくなります。ですが他者の表情や声の調子の変化を見分けにくい場合、相手の感情や思考の変化も見分けにくくなってしまいます。
②:見分けたサインをきっかけに、直前に自分が相手に対してどんな言動をしているのかを振り返る(メタ認知)
これは自分がしていることをリアルタイムで客観的に見る能力とも言えます。そしてリアルタイムで客観的に見る能力のことを「メタ認知」と言います。
誰にでもあるメタ認知が働いていない時の例は、「あれ?いつの間にかこんな時間!?」と感じる直前までの自分の状態です。「いつの間にかこんな時間!?」と感じるということは、あなたは何かを夢中になってやっていて、自分自身がどんな時間経過の中にいるのか気付くことがなかった(つまり時間についてのメタ認知が働いていなかった)ということです。
自閉症スペクトラム障害の人はメタ認知が弱いため、自分自身の状態にその場で気付くことができにくくなり、自分の会話のやり方を修正しにくくなります。
③:振り返った自分の言動について、逆の立場ならどう感じるか推測する
自分と相手の立場を逆にして、相手の感情や思考を推測する機能のことを「心の理論」と言います。この能力が生まれつきある程度備わっている人は、「相手に○○と言ったら、相手は□□という気持ちになるだろう」ということを無意識に予測しています。
逆に心の理論の機能が弱いと、相手が何を感じたり考えたりするのかを想像することが非常に難しくなります。もしくは、かなり意識的に相手の立場に立つという操作を頭の中で行う必要があります。自閉症スペクトラム障害のある人は心の理論が弱いため、相手の立場に立ったり、相手の心の状態を理解することが難しい傾向にあります(*)。
*なお、「相手の心の状態を理解することが難しい」ことがあったとしても、誠実であることはできます。実際に、「自尊心を育てるために知っておきたいアスペルガーの29の能力」の中には「誠実さ」が含まれています。
④:推測にもとづいて、自分の次の言動を選択する
「空気が読める人」は①〜③を経て得られた推測をもとに、次に行う自分の言動を選択しています。
例えば、自分の発言によって相手の表情のサインが笑顔から無表情に変わったら、(何か悪いこと言ったかな?)と推測するかもしれません。そして推測を元に「何か悪いこと言ったかな。ごめんね」と言うことを選択をするかもしれません。また別の選択としては、「あれ、もしかして話が逸れたかな。最初は何を話してたんだっけ?」と尋ねて話の軌道修正をするかもしれません。
⑤:①〜④を会話の最中に同時に行い、軌道修正を繰り返す
会話の最中には、これまでに挙げた①〜④のことを同時に行う必要があります。これを会話の最中に繰り返し行うことによって、会話をお互いに気持ちよく行うことができます。また、会話の大きな脱線を防ぐことができます。
このようなやり方を苦手だと感じている人にとっては非常に難しいと感じるかもしれません。ですが、このプロセスを繰り返すことによって徐々に慣れて、コミュニケーションを楽しむことができるようになっていきます。そのためのワークショップを行っている団体について後ほど触れます。
▼空気を読むのは難しいから、読めてるはずの人でも読み誤る
では、発達障害のない人が「空気読めない」状態になることは絶対にないのでしょうか?いえいえ、そんなことはありません。 例えば、人からウソをつかれたり、だまされる経験をすることによって、発達障害のない人でも空気を読み間違えるようになります。「読めている」と考えていたことが実は「読めていなかった」結果として、ウソを信じたりだまされるのですから、自分の推測を信じられなくなってしまいます。このような状態が人間不信と呼ばれる状態です。
人間不信ほどではなくても、強い批判にさらされるような経験をした後には、誰に話しかけても批判されるような気がしてしまいます。うつ病の人にもこのような「空気の読み間違え」の傾向があります。このことから、「空気が読めない」状態は「心の理論」の弱さだけでなく、日頃の環境によっても左右されるものであると言えます。
▼見えない空気を見えるようにするのがコミュニケーションのバリアフリー
では、「空気が読めない」 状態にある人に対して提供できる手助けとはどのようなものでしょうか?もっとも単純なやり方は、感情や考えをトゲのない言葉で表現してしまうことです。それまで空気と呼ばれていたものを言葉で表現してしまえば、空気を読む必要性そのものがなくなってしまうのですから、コミュニケーションのバリアフリーだと言えるでしょう。
例えば、一方的に話をしてしまうことが多い人に対しては次のような伝え方があります。以下はすべて、自分の「思考/事実」と「感情」をセットにして伝えている発言の例です。
- 一方的に相手が話しているときは「私にも話をさせてもらえると(思考)うれしいです(感情)」 と伝える
- 相手が話すことを譲ってくれたら「自分の話を止めて、私の話を聞いてくれたこと(事実)が、うれしいです(感情)」と伝える
- 話が脱線してしまって、話したいことから離れていきそうになったら「さっきの○○の話に戻ってもいいですか?(お願いのみ)」と伝える。
- 話の脱線を修正してくれたら「話を戻してくれたので、聞きたいと思っていたことを聞くことができます(事実)。うれしいです(感情)」と伝える。
最初は「うれしいです」をわざわざ言うのが恥ずかしい気がするかもしれません。毎回言うのが恥ずかしかったら、10回に1回位から、言いやすい人に対して初めると誰にでも優しいユニバーサルデザインなコミュニケーションの経験をすることができます。
相手に伝える自分の気持ちの表現には「うれしいです」以外にも、良いですね、いい感じです、素晴らしい、など色々な表現があります。
何度か参加した感想として、イイトコサガシが行っているワークショップはバリアフリーなコミュニケーションを経験するための機会として優れていると感じています。バリアフリーなコミュニケーションを体験してみたいという当事者、支援者、ご家族などが参加できます。
▼まとめ
- 思考と感情を言葉に表してしまうことによって、「空気」は見えやすくできます。
- 「空気」が見えるコミュニケーションは、バリアフリーなコミュニケーションです。
- バリアフリーなコミュニケーションのやり方は、発達障害の人にもそうでない人にも優しくうれしいものになれる可能性があります
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