いじめられて、うつっぽい子の対応にいじめに立ち向かうワークブックが役立つ
この記事の目次
- なぜ「いじめかもしれないこと」という表現を使うのか?
- 立ち向かうための3つのステップ
- ステップ1:“いじめかもしれないこと”にあったときに、考えること
- ステップ2:“いじめかもしれないこと”にあったときに、言うこと
- ステップ3: “いじめかもしれないこと”を報告する
- いじめについてよくある疑問
- まとめ
▼なぜ「いじめかもしれないこと」という表現を使うのか?
子どもや周囲の大人から見ていじめだとは言い切れない行為が起こることがあります。いじめだと断言できないことについてはどのように対応していいのか難しいと感じることが多いはずです。
ですがもし、いじめだと断言できないという理由で、「いじめかもしれないこと」を放置していたら被害が深刻化していってしまう危険性があります。深刻化を防ぐためには、早期発見早期対応することが大切です。そのためには「いじめ」だけでなく「いじめかもしれないこと」についても対応していく必要があります。子どもの目から見た「いじめかもしれないこと」の例には以下のものがあります。
- 他の子どもが、ぼくを笑うようなことをする
- ぼくにとって気持ちが悪いこと、怒るようなこと、間違っていると思うことをする
- ぼくのお金や物を勝手に持っていく
本書では他にも例が記載されていて「いじめかもしれないこと」を理解しやすくなっています。いじめの分類については「発達障害といじめ①:いじめの定義といじめの7種類を知りましょう」が参考になります。
▼立ち向かうための3つのステップ
本書は主に3つのステップで構成されています。それぞれのステップでは以下のようなことを目的としてワークが組まれています。
「いじめに立ち向かうワークブック」の目次
いじめに立ち向かう方法
ステップ1: “いじめかもしれないこと”にあったときに、考えること
ステップ2:“いじめかもしれないこと”にあったときに、言うこと
ステップ3: “いじめかもしれないこと”を報告する
いじめに立ち向かうために(まとめ)
また、いじめに対処するためには大人がチームを組むことがとても大切です。チームに入ってもらう人の例としては、保護者、担任の先生、保健室の先生、校長先生、スクールカウンセラーなどが考えられます。
チームがどのような役割を果たす必要があるのかについても述べられていますから、ワークブックは必ず大人と子どもが一緒に取り組むようにしましょう。
ステップ1:“いじめかもしれないこと”にあったときに、考えること
冒頭に書いた通り、いじめ被害を受けた子どもは「自分が悪い」 という考えにとらわれてしまいます。そのような考えを手離して、健康的な考えを取り入れるためのワークがステップ1です。健康な考えがあることによって、いじめのショックから立ち直ることができますし、今後のいじめの被害を防ぎやすくなります。健康的な考えとは、、、
- ぼくがいじめにあうのは、ぼくが悪いからではありません
- ぼくをいじめようとしている子どもは、自分をコントロールできない、心の弱い人です
- いじめられているのは、ぼくの他にもたくさんいます
それぞれについて以下で説明していきます。
1.ぼくがいじめにあうのは、ぼくが悪いからではありません
この考え方は、いじめられた子の自尊心を保つために役に立ちます。子どもでも大人でも自分の身に悪いことが降り掛かると、本来自分に責任がないことであっても「自分が悪い」と考える傾向が強まり、抑うつの状態をも強めていきます。
いじめの被害を受ける子には「悪い部分」はありません。仮に被害を受けた子に弱い部分があったとしても、それは「いじめられていい理由」にはなりません。なぜなら「どんな人にも等しく人間としての価値があり、尊重される必要がある」のですから。
2.ぼくをいじめようとしている子どもは、自分をコントロールできない、心の弱い人です
加害者が抱えている問題を知ることによって、いじめ被害を受けた子は「自分が悪い」という考えを手離しやすくなります。
実は加害者の子も問題を抱えていることが分かっています。加害者の子は、不安定な家庭環境に育っているケースが多いようです。不安定な家庭環境の例としては、両親がいつも言い争いをしている、親の気分によって子どもへの接し方に一貫性がない、親が家庭内での問題の解決スキルに乏しい 、といったものです。
このような不安定な家庭環境に育つと、「愛着」と呼ばれる他者との信頼関係の形成に問題を生じてしまいます。愛着に問題を生じると、他者への共感性に欠けてしまったり、自分の自尊心を保つために他者の優位に立とうとする傾向が現れることがあります。このような理由で加害者の子は自分が優位に立てる相手を探して、いじめるようになってしまうのです。このように考えると、いじめる子にも支援が必要であることがわかります。
いじめられる子、いじめっ子についてより理解するためには「いじめ予防のために3種類の生徒を理解しよう:発達障害といじめ②」が参考になります。
いじめられているのは、ぼくの他にもたくさんいます
この考えは、いじめられている子の頭に生じる「自分は他の人と違っている」という考えを手離すのに役に立ちます。
いじめられている子がどの位たくさんいるかというと、アメリカの調査では小学6年生〜高校1年生の10.6%がいじめられたことがあると答えています。このことから、40人のクラスに平均4人のいじめられている子がいて、すべての学年が3クラスの小学校にはいじめられている子が平均72人いることになります。
このような視点を持つことによって「自分だけが違っている」という考えを手離すのに役立ちます。
参考:Bullying Behaviors Among US Youth. Prevalence and Association With Psychosocial Adjustment
以上がステップ1で行うワークの説明です。実際に子どもとやる際のワークの手順は本書をご覧ください。
ステップ2:“いじめかもしれないこと”にあったときに、言うこと
ステップ2では以下のことを行います。
- いじめられたときに何を言うか考える
- 言い返した後は立ち去る
- 大人と「言い返して立ち去る」練習をする
以下でそれぞれについて説明します。
1.いじめられたときに何を言うか考える
いじめられていると、何も言えなくなる、さらに被害を受ける、という悪循環におちいってしまいます。悪循環を避けるために、いじめられたときに言うことを決めておくことが大切です。言うことの例は「いやだから、やめて」「聞こえているよ」などです。
何か一言を言うことは、自己効力感を高めることに役立ちます。自己効力感とは無力感とは逆の感情のことを言います。自己効力感があることによって、「自分はやれる」「自分は大丈夫だ」という心の強さを取り戻すことができます。このことからも言い返す言葉を考えることは大切です。
ただし言い返す言葉を選ぶときには、相手を刺激する言葉は避けるようにします。穏やかに、しかし自分の意見は伝えることが大切です。
2.言い返した後は立ち去る
言い返した後は、その場に留まってはいけません。必ずその場から速やかに離れるようにします。その場から離れることによって、それ以上の被害を受けずにすみますし、自分をコントロールすることができます。
3.大人と「言い返して立ち去る」練習をする
以上のことを頭にいれたら、必ず大人と練習しましょう。本番で初めてやってみるよりも練習するときの方が、ずっと緊張しないで行うことができるはずです。緊張の少ない所で練習して慣れることによって、本当に必要なときに必要な行動を起こすことができるようになります。
また、本書には練習する際のポイントについても記載されていますから、大人が一つずつ確認しながら練習すると効果的です。
ステップ3: “いじめかもしれないこと”を報告する
ステップ2で立ち去る練習をしました。ステップ3では立ち去った後に行うことについて練習します。立ち去った後には、チームの大人に報告し、報告された大人は対処するための行動をとります。大人が対処する行動をとるためにも、子どもは報告する必要があります。
何を、どうやって報告する?
ここまで報告することの大切さについて述べました。ここからは何をどうやって報告するのかについてです。
報告する内容
報告する内容は、いつ、どこで、だれがだれに、なにをしたのか、です。このような情報を元に事実を客観的に確認することによって、「いじめかもしれないこと」にどのように対処したら良いのか判断しやすくなります。
報告の仕方
口頭で伝える、手紙で伝える、などがあります。すぐに伝えられない事情があるときには、忘れないように紙に書いておいて後から渡すというような使い分けができます。
報告は子どもをいじめから守るチームの誰かに対して行います。最初に誰に報告するか、報告する人がいなかったらどうするか、を決めておくことも重要です。
注意点として、日頃から親が間違いに対して厳しい場合、子どもがいじめられていることを報告できなくなるケースがあります。親は子どもに対して日頃から受容的であることが、結果的に子どもは「いじめかもしれないこと」を報告しやすくなります(参考:いじめられていることを大人に知らせることができる生徒の特徴)。
いじめの報告は「告げ口」とは違うことを確認しましょう
いじめの報告をすることと「告げ口」とは何が違うのでしょうか?いじめの報告する必要性は次のように説明することができます。
①いじめられた体験は一生影響する
いじめ被害はうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)をもたらします。うつ病は、さまざまな活動ができなくなってしまう深刻な心の病気です。PTSDは、いじめられた時の恐ろしい記憶が日常生活の中で突然思い出してしまう症状を起こします。どちらも、生活や勉強に支障をきたすことになります。
いじめを受けることは人格形成にも大きな悪影響をもたらします。人間不信になり、友達と関係を作ったり維持していくことが難しくなります。成人した後に自立して仕事を行っていく際にも、難しさを感じることが多くなります。
長期的な影響を考えたときに、いじめを放置しおくことは許されません。このような悪影響の大きさを考えると、いじめを報告することは正しいことだと言えます。
②いじめる子が抱えている問題を解決できる
すでに述べた通り、実はいじめの加害者の子も問題を抱えています。別の見方をすると、ある子どもがいじめをしている場合、その子が問題を抱えているサインだとも考えられるのです。いじめるのは満たされない気持ちの表れだすると、いじめっ子に対しても別の支援が必要なのだと考えることができます。
いじめの存在を大人が知らされることによって、加害者の子が間違ったことを続けることを防ぐことができます。また、加害者の子が抱えている問題を解決していくことができるようになる可能性があります。
▼いじめについてよくある疑問
そもそもいじめって何ですか?
いじめは以下の3項目を満たすものだと定義することができます(参考:発達障害といじめ①:いじめの定義といじめの7種類を知りましょう)。
-
標的にされた個人に対して長期間にわたり、悪意と結びついている可能性のある否定的行為を繰り返す。(ただしいじめは、一度限りのものとして行われることもある。)
-
双方の力のアンバランスさ。(力とは次の4種類です。腕力などの身体的な力、言葉を操る言語的な力、グループを作るなどの対人的な力、「空気」を読んで状況を理解する力)
-
標的にされた個人の感情が落ち込むのに対し、否定的行為を行った個人の感情には落ち込みは起こらない。ただし発達障害を持つ子どもの場合、いじめられている最中ではなく数時間〜数日後になって落ち込みなどの感情的影響が表れるという特性を持つ場合がある。
「いじめているつもりはない」という反論をされた場合
仮に子どもにいじめる意図が本当になかったとしても、上記のいじめの定義3に該当しないか考えてみましょう。
定義3にある状況というのは、片方の子は深く落ち込んでいて、もう一方の子は楽しかったり優越感に浸っている状況です。このような状況で、本当に悪意がない場合には片方の子だけが楽しくなるのではなく、双方が楽しめる遊び方ができるようにうながす必要があるかもしれません。
判断が難しいケースでは「発達障害といじめ①:いじめの定義といじめの7種類を知りましょう」が参考になります。
いじめた仕返しとしていじめられているから仕方ない?
いじめる側といじめられる側が逆転するケースの場合、過去にいじめる側だった子が現在いじめられているときに「自分もいじめたから仕方がない」と考えることがあるかもしれません。「償いや罰としてのいじめ」という考え方は正しいのでしょうか?(例として、マンガ「聲の形」の主人公・将也)
結論から言うと、償いや罰としてのいじめは間違っています。なぜなら、いじめがいじめを生む連鎖ができてしまうからです。連鎖ができるということは、新たな不幸が次々に生まれていくことを意味します。いじめというのは、加害も被害もどちらの側になるにしても不幸なことに変わりありません。
別の側面から考えてみましょう。法治国家で人を裁くことができるのは法律です。裁く必要があるのであれば、必要な手続きを取るのが市民としてのあり方です。ですから、いじめという敵討ち(かたきうち)あるいは私的制裁(リンチ)を用いるのは間違っています。明治以降の日本では敵討ちは法律によって禁止されています。
さらに、裁きというのは過ちを犯した人を更正させる目的で行われる必要があります。いじめの加害者に対する罰としていじめを用いるとすれば、更正させるのとは逆に、一層、いじめ加害者が抱えている問題を深刻化させていってしまいます。
以上のことから、償いや罰としてのいじめは間違っています。ですから、いじめ返す以外のやり方で被害者の気持ちを回復させていく必要があります。
▼まとめ
- いじめ被害は深刻化しないようにすることが大切です
- 深刻化防止には3つのステップが役に立ちます
- 深刻化防止には子どもと周囲の大人との連携が大切です
ワークブックには小学校低学年用(オレンジ)と高学年〜中学生用(緑)があります。年齢に応じた平易な表現になっています。
この記事があなたの役にたったらFacebookでフォローするかいいね!などのボタンのクリックをお願いします。